熟年離婚するときには、若い夫婦の離婚とは異なる注意が必要です。
特に「離婚後の生活」「経済的な問題」「老後の問題」などが重要です。一方で親権者問題などが発生する可能性は低いと言えるでしょう。
今回は熟年離婚の際に知っておくべき情報や知識を名古屋の弁護士が解説して参ります。
このページの目次
1.熟年離婚で問題になりがちなこと
熟年離婚のケースで問題になりやすいのは以下のような事項です。
1-1.財産分与
財産分与は、夫婦が婚姻中に形成した夫婦共有財産を清算するための手続きです。婚姻期間が長いと当然夫婦共有財産も高額になります。
熟年離婚の場合、婚姻期間が20年以上という例も少なくないので、財産分与額は高額になりがちです。そうなると、お互いにとって財産分与が非常に重要な要素となり、トラブルの元になる例が頻発します。
1-2.年金分割
年金分割は、婚姻中に夫婦が払い込んだ年金保険料を分け合う制度です。よって、財産分与と同様に婚姻期間が長ければ長いほど影響が大きくなります。
若い夫婦の場合には、夫から妻への年金の移譲金額は月額数千円という例が多数ですが、熟年離婚になってくる毎月夫の年金から妻の年金へ数万円が移譲される例が多くなってきます。
また現実的に、熟年離婚の場合には年金受給年齢が近づいていたりすでに受け取っていたりするので、年金問題が切実です。夫が「年金分割したくない」妻が「年金分割は必ずしてほしい」と主張してもめる例も多々あります。
1-3.離婚後の生活や将来の介護のこと
熟年離婚をするなら、お互いに離婚後の生活や将来の介護問題などについて考えておくべきです。特に妻が専業主婦だった場合「離婚後に一人で自活していけるのか」が問題です。年を取ってから就職するのは大変ですし、年金分割や財産分与を受けても死亡するまで不自由なく暮らせる方は少ないでしょう。
夫の方も、「今まで家事はすべて妻がやってきた」という場合、突然何もかも自分一人でしなければならないので大変です。生活が荒れてしまう方も多数おられます。
また財産分与で手持ち財産が目減りし、年金分割で毎月の年金も減らされるので生活が苦しくなるケースもあります。
1-4.遺産相続との比較
熟年離婚を検討するとき「遺産相続」とどちらが得になるかという視点を持ちましょう。
特に妻の立場からすると、離婚より遺産相続の方が得なケースは多数あります。離婚の財産分与は「夫婦共有財産」のみを対象としますが、遺産相続であれば「夫のすべての財産」が対象です。
また離婚すると受け取れるのは、もともとの自分の年金に年金分割を足した分だけですが、夫が死亡した場合には遺族年金を受け取ることが可能です。遺族年金は年金分割を加算した自分の年金より高額になるケースが多数です。
このように、熟年離婚する際にはいろいろと検討しておくべきポイントがたくさんあるので、正確な知識と理解をもって慎重に進めていくべきです。
2.財産分与
熟年離婚の財産分与で頻繁に問題になるのは「退職金」です。夫の退職金をどの程度分与するかでもめてしまいます。
退職金が既に支給されて預貯金などの形になっているなら、全額が財産分与の対象になり、夫婦が2分の1ずつ分け合います。
一方退職金をまだ受け取っていない場合には、今後10年以内に退職する予定があり、退職金が支給される蓋然性が高いケースにおいて退職金が財産分与対象となります。
夫婦が別居しているケースなどで、退職金が支給されると夫が使い込んでしまうおそれがある場合には、退職金の請求権を「仮差押」して支給を差し止めることができます。そうすれば離婚まで使い込まれないように維持することが可能です。
3.年金分割
年金分割には、夫の協力の不要な「3号分割」と協力が必要な「合意分割」の2種類があります。3号分割については夫が合意しなくても離婚後に妻が年金事務所に行けば一人で手続きできますが、合意分割では夫の合意が必要です。分割割合についても夫が納得しないと2分の1にならず、もっと低い割合にされる可能性があります。
ただし夫が合意しなくても、離婚後に「年金分割調停」を申し立てれば、裁判所が年金分割割合についての判断をしてくれます。裁判所が分割割合を定めるときには基本的に2分の1にしてもらえるので、離婚時に無理に低い割合で納得する必要はありません。
夫が年金分割に応じないなら、離婚後に年金分割調停・審判を行って2分の1の割合にしてもらうのが良いでしょう。
4.遺産相続との比較
夫婦が互いに高齢になっているなら、遺産相続と離婚のどちらが有利になるのか検討しましょう。
4-1.財産分与対象の比較
離婚の財産分与は夫婦の共有財産のみを対象とするので、相手の独身時代の財産や相手が親から受け継いだ遺産、贈与を受けた財産などは対象になりません。一方遺産相続であれば、そういったすべての財産を対象にすることができます。
財産分与は夫婦が2分の1ずつに財産を分け合いますが、遺産分割の場合、子どもがいない夫婦であれば妻の取得分は2分の1にとどまらず3分の2や4分の3、さらには全額妻が受け取れるケースもあります。
4-2.相手に借金がある場合
離婚であれば相手の借金を受け継ぐ必要がありません。一方遺産相続であれば相手の借金やその他の負債も相続対象となります。相手の資産状況を見て負債が多そうな場合には早期に離婚しておいた方が得と言えるでしょう。
4-3.年金の比較
年金についても離婚せず夫婦のまま死別した方が有利になるケースが多数です。年金分割によって増額された年金額よりも遺族年金の方が高額になる例が多いためです。
具体的な受給金額はケースによっても異なるので、年金事務所に問い合わせて情報開示などを受けてみるとよいでしょう。
熟年離婚は上記のような視点から慎重に検討した上で進めるべきです。対応に迷われたら弁護士がご相談に応じますので、お気軽にお問い合わせください。