このページの目次
第1 財産分与とは
財産分与には、夫婦共有財産を清算する清算的財産分与の他、扶養的財産分与及び慰謝料的財産分与が存在しますが、離婚時における財産分与は主として清算的財産分与のことを指すので、以下は、清算的財産分与につき、説明します。
なお、夫婦で築いた財産の金額については、一般的には夫婦生活が長いほど多いといえ、婚姻期間が長い夫婦であれば夫婦で築いた財産分与の金額も多くなり、数千万円の財産分与が認められる事例も存在します。
第2 清算的財産分与
1 清算的財産分与
清算的財産分与とは、基準時において有する、婚姻後に夫婦で築いた財産を清算する制度です。
2 清算的財産分与の対象財産
⑴ 財産の種類としては、夫婦で共に築いた不動産、預貯金、保険、株式、退職金等が含まれます。
⑵ なお、婚姻前から有していた財産や、相続財産・親などから贈与を受けた財産については、夫婦ではなく自らが単独で築いた財産、いわゆる特有財産であるから、財産分与の対象にはなりません。例えば、預金において、婚姻後入出金がなく、婚姻前の残高が維持されている場合については、当該預金は特有財産であるため、財産分与の対象とはなりません。
ただし、婚姻期間中に取得・形成された財産は夫婦で築いた財産と推定されるため、当該財産が特有財産と主張する場合、その特有財産性を立証する必要があります。特有財産の立証については、一般的に婚姻生活が長ければ長いほど難しいといえます。
3 財産分与基準日
財産分与の基準日については、原則として別居時とされることが多いですが、場合によっては調停申立時等になる場合もあり、別居せずに離婚した際の離婚後の財産分与については離婚時が財産分与基準時とされることが多いです。別居の日時などの基準時に争いがある場合に関しては、まず基準日について合意したうえで、財産分与を進めていくことになります。
第3 個別的財産についての考慮
1 預貯金について
⑴ 対象となる財産
原則として基準日時点において通帳に残っている預金残高が財産分与の対象になります。
子名義の預金については、子の固有の財産として財産分与の対象から除外すべきであるという主張が見られます。もちろん当事者間でそのような合意ができれば問題はありません。しかし、合意ができない場合については、当該預金の趣旨等から子の固有の財産か夫婦共有財産かが判断されることとなります。具体的に、子がお小遣いやお年玉などを預金した場合やアルバイト代を貯金している場合は、子が自由に処分を許されている預金として子の固有の財産となります。一方、子の進学資金の預金など夫婦が自己の資金を子名義で預金している場合、すなわち実質的に夫婦の資産と呼ばれるお金については、夫婦共有財産として財産分与の対象となります。
なお、基準日直前に多額の貯金が引き出された場合は、合理的な使途が説明されない場合、別居時の預金に加えそれに相当する金額が財産分与の対象となります。また、別居間際あるいは別居後に財産分与の支払いをする側の預金を財産分与の支払いを受ける側が引き出した場合などは、かかる引出し行為を財産分与の支払いと評価する例もあります。
⑵ 資料
預貯金についての資料としては、残高証明書、通帳、取引履歴等が考えられますが、基準日時点における残高が分かれば財産分与の資料としては必要十分ですので、特有財産の立証等をしない限りは残高証明書の提出をおすすめします。
⑶ 特有財産性について
預金については、特有財産が入金されたとしても、婚姻後に給与等の入出金があり、共有財産部分が存在する場合には、共有財産部分と特有財産部分が区別できない限り、夫婦共有財産として評価されます。したがって、預金の特有財産性の立証は、婚姻前の特有財産部分と婚姻後の夫婦共有財産部分をいかに区別できるかがキモとなります。なお、預金はその他の財産形成の原資となっていることも多いため、預金の特有財産性の立証は、様々な特有財産の立証について必要となってきます。
2 保険について
⑴ 対象となる財産
保険については、基準日時点に保険を解約した場合についての解約返戻金等解約時に戻ってくるお金(以下、単に「解約返戻金」といいます。)が財産分与の対象となります。なお、結婚前に契約した場合で、結婚後も保険料を支払っている場合には、別居時の解約返戻金につき、契約期間を同居期間で按分した金額が財産分与の対象となります。
なお、子供のいる夫婦の場合、学資保険を契約している場合が多くみられます。学資保険は元々子供の進学資金等子供のために契約し必要に備えているものですから、財産分与が問題になる場合、親権者が子の固有の財産として財産分与の対象外とすべきという主張や、財産分与の計算にあたっては考慮せずに名義を親権者に変更することを求める場合が多くみられます。そして、実際にそのように合意して解決している場合もみられます。
しかし、財産分与について合意ができず、判決や審判で判断される場合には、学資保険は他の保険と同様、財産分与の対象となります。
⑵ 資料
資料としては、保険会社に問い合わせて、別居時の解約返戻金額がわかる資料を発行してもらうこととなります。
⑶ 特有財産の立証
保険について、特有財産の立証としては原資の特有財産の立証が必要となり、預金が原資となっている場合については預金の特有財産性の立証と基本的には同じです。なお、結婚前に保険料全額を支払っている場合は、婚姻前に保険料全額支払った事実を立証する必要があります。
3 株式等有価証券類について
⑴ 対象財産について
株式等有価証券類(以下、「株式等」といいます。)については、基準日において有している株式等が対象財産となります。
⑵ 株式の評価額について
原則として口頭弁論終結時の時価となり、別居後に売却した場合は米客時の評価額となります。ただし、証券会社から資料を取り寄せる場合については、別居時の評価額の資料も提出されるため、当事者双方に異議がなければ事実上別居時の評価額において分与する例も見られます。
⑶ 資料
資料としては、証券会社に問い合わせて、基準時時点において所持している株式をまとめた書類を発行してもらい、それを資料にすることとなります。
⑷ 特有財産性
株式等の特有財産の立証は、証券会社の口座に入金される原資の特有財産性の他、株式等の売買についての記録を追っていく必要があり、証券会社の取引履歴を精査する必要があります。
4 退職金等
⑴
近年は、企業の退職時における給付も多様化されているため、退職金といっても、退職一時金、退職年金、確定拠出年金等に分けられます。
⑵ 既払いの退職金等について
既払いの退職一時金については、預金などの資産に変化しているため、基準日において残存している範囲において財産分与の対象となります。具体的に退職金が預金口座に預けられている場合は当該口座の預金として、退職金を原資に不動産や有価証券が購入されている場合は当該不動産や株式が財産分与の対象になります。
⑶ 将来の退職金等について
ア 将来の退職金
将来の退職金については、財産分与の対象となるか否かにつき議論がありましたが、現在の実務としては、財産分与の対象になるとされています。
イ 確定給付型年金・確定拠出年金
確定給付型年金や確定拠出年金についても、退職一時金と同様、財産分与の対象となります。
確定給付型年金については、一時金を選択した場合の支給額を参考に、同居期間に対応する部分の金額が財産分与の対象となります。
また、確定拠出年金については、基準時までの拠出額が財産分与の対象となります。
ウ 退職金の評価方法
退職一時金の評価方法として、もっともよく利用される方法としては、①基準日時点において自己都合退職した場合に支給される金額を基準に、同居期間に按分する額を清算対象として、離婚時に支払う方法が一般的とされています。しかし、必ずしもこのような方法によらざるを得ないわけではありません。
具体的には、将来定年退職した場合に支給されるであろう退職金の金額を算出し、中間利息を控除して口頭弁論終結時の価額に引き直し、これを同居期間で按分し、離婚後に清算するという方法があります。定年退職まで残り数年の場合などには、このような方法が合理的とされています(東京地裁平成11年9月3日判決)
また、退職金の支払い時期を離婚時期ではなく、退職金支給時期とする例も存在します(東京高裁平成10年3月13日決定、名古屋家裁半田支部平成29年11月20日判決)。
5 不動産の財産分与について
不動産については、不動産自体を分けることは不可能であるから、不動産の現在価値を把握し、その2分の1を分与するとされています。また、不動産が財産分与の対象となる場合にはそれに対応するローンがあることが通常であることから様々な問題が出てきます、また、特有財産などの解決についても一筋縄ではいきません。
ですので、不動産が主要な財産でそれについての財産分与が争点となりそうな場合には、納得のいく解決を行うためにも、弁護士を入れた解決を強く勧めます。
以 上