熟年離婚のケースなどでは、夫婦がお互いに「年金分割」に高い関心を持つでしょう。
「夫婦の年金を半分ずつにできる」というイメージもある年金分割。しかし実際には「年金額を半額ずつにする制度」ではありません。
年金分割をしても、期待していたほどのお金は受け取れないケースも多いので要注意です。
今回は離婚の際に知っておきたい「年金分割制度」について、名古屋の弁護士が解説します。
このページの目次
1.年金分割とは
年金分割とは、夫婦が離婚するときに「婚姻中に払い込んだ年金保険料を分け合う制度」です。
婚姻中、夫婦のどちらかや両方が厚生年金や共済年金に入っていたら、毎月給料から年金保険料が天引きされます。その年金保険料を離婚時に分け合い、将来年金を受け取るときの金額に反映させるのが年金分割です。
婚姻中の年金保険料は夫婦が協力して払い込んだものなので、離婚しても分け合うのが公平であるという考え方から年金分割の制度が導入されました。
2.年金分割の注意点
年金分割の対象になるのは「婚姻中に払い込んだ年金保険料」であって「年金そのもの」ではありません。年金分割の按分割合を0.5(2分の1ずつ)にしても、夫婦の年金が同額になるわけではありません。具体的な年金支給額については、夫婦が年金を受け取る年齢に達したときに社会保険庁が計算して決定します。
何十年と連れ添った夫婦であっても、年金分割によって移譲される毎月の年金額は2~5万円程度となるケースが多数です。「年金分割してもらえるから離婚後の生活も安心」と考えていると予想外の結果になる可能性があります。
3.年金分割した場合に年金を受け取れる時期について
年金分割をしても、離婚後すぐに年金を受け取れるわけではありません。それぞれの当事者が年金を受け取る年齢になって、はじめて年金を受け取れます。たとえば夫が年上のケースで年金分割を行ったとき、夫が年金を受給し始めても妻が受給年齢に達していなければ年金は一切支払われません。「夫から移譲された年金も含めて」年金をもらえるのは「妻が受給年齢に達したとき」からですので、注意してください。
4.対象になる年金の種類
「年金分割」というとすべての年金が対象になるように思えますが、実際には対象となる年金はほんの一部です。
具体的には「厚生年金」と「共済年金」のみです。ただし共済年金は2015年10月に廃止されて厚生年金に統一されているので、現在では厚生年金のみが対象となります。
年金には「基礎年金」の部分がありますが、この部分は分割の対象外です。夫婦が双方とも厚生年金に加入していない場合、年金分割できません。具体的には自営業者の場合、国民年金にしか加入していないので年金分割の請求は不可能です。
年金分割できるのは、夫婦の片方または双方が「会社員、公務員、会社役員」のケースです。
5.2種類の年金分割
年金分割には、「3号分割」と「合意分割」の2種類があり「適用される場面」と「分割請求の手続き方法」が異なります。
5-1.3号分割
3号分割とは、2008年4月以降に一方の配偶者が「3号被保険者」であった場合に利用できる年金分割です。3号被保険者とは、配偶者に扶養されている専業主婦などの人です。
3号分割が適用される場合、相手の同意がなくても当然に年金分割ができて、按分割合は0.5(2分の1)となります。
離婚後、3号被保険者だった人が一人で年金事務所に行って「標準報酬改定請求書」という書面を提出すれば年金分割の請求手続きが完了し、将来年金を受け取る年齢になったときに改定された金額の年金が振り込まれます。
5-2.合意分割
合意分割は、3号分割が適用されないケースにおける年金分割です。たとえば夫婦が共働きのケース、2008年3月以前の年金保険料を分割したいケースなどです。合意分割の場合、年金分割するためにはお互いの合意が必要です。按分割合も0.5までの範囲で当事者が自由に定められます。
手続きの方法も3号分割とは異なります。合意分割の場合には基本的に離婚後、当事者両方が年金事務所に行って手続きを行わないと年金保険料の按分が行われません。
ただし離婚時に公正証書で年金分割を定めておけば、権利者一人でも年金分割の手続きができます。
6.合意する方法
合意分割をするには離婚時に当事者同士が話し合って年金分割に合意し、按分割合を決めなければなりません。年金分割の合意ができたら「公正証書」に定めておけば、離婚後相手に一緒に来てもらわなくても請求者が単独で年金分割の手続きできます。
話し合っても合意できない場合には、家庭裁判所で話し合うことが可能です。
離婚成立前なら離婚調停で話し合いができますし、離婚成立後なら家庭裁判所で「年金分割調停」を申し立てましょう。
年金分割調停をしても相手が年金分割に応じない場合には、手続きが「審判」に移行します。審判ではほとんど確実に年金分割が認められて按分割合も0.5になるので、話し合いで相手が了承しなかったり按分割合を低く主張してきたりしたら、審判にした方が良いでしょう。
7.年金分割の期限
年金分割の手続きをするには、年金事務所で「標準報酬改定書」を提出しなければなりませんが、それには期限があるので要注意です。
離婚後「2年間」しか年金分割を受け付けてもらえません。按分できる年金があっても相手の合意をとれていても、2年間手続きをしなかったら年金分割できなくなります。
離婚後に年金分割調停を申し立てる際にも、必ず離婚後2年が経過する前に家庭裁判所で手続きを行いましょう。
2年が経過する前に年金分割調停を申し立てれば、調停の最中に2年が過ぎてしまっても権利は維持されます。ただしその場合、調停が成立してから1か月以内に年金事務所で手続きをしないと、分割請求を受け付けてもらえなくなします。年金分割調停で年金分割が決まったら、すぐに調停調書や審判書を持参して年金事務所へ行き、標準報酬改定請求書を提出しましょう。
年金分割は離婚後の生活維持のため非常に重要となるケースもあります。対応に迷われたら、お気軽に名古屋の弁護士までご相談下さい。