医師と離婚するときには、一般のサラリーマンや事業者などとは異なる問題が発生するケースが少なくありません。
たとえば医師の収入が高い場合、財産分与の割合が修正される可能性がありますし、医療法人化している場合特有の問題もあります。
以下では医師の離婚について押さえておきたいポイントを名古屋の弁護士が解説していきます。
このページの目次
1.医師夫婦が離婚する理由
医師といえば年収も社会的地位も高いので、一般には「医師と結婚したい」と憧れる女性も多数います。「医師と離婚したい」と言うと、周囲からは「せっかく医師と結婚したのに離婚するの?」と不思議がられることもあるでしょう。
しかし現実には、医師は離婚率の高い職業です。当事務所にも医師と離婚したいと考える女性の方が多数ご相談に訪れます。
離婚理由として多いのは以下のようなものです。
1-1.夫の不倫
男性医師には、一般の男性と比べて不倫の機会が多数あります。モテる職業なので、既婚であってもかまわず寄ってくる女性がたくさんいます。職場でも看護師を始めとした女性に囲まれているので、どうしても不倫関係に陥りやすいといえます。
妻に不倫がバレて離婚問題に発展する例が多々あります。
1-2.暴言、モラハラ
医師は非常にストレスの溜まる仕事です。家ではついついストレスのはけ口として妻に暴言を吐いてしまうケースもみられます。またエリート意識の高い方の場合、妻を下に見てモラハラ的な言動をしてしまう方も少なくありません。妻としては、耐えがたくなって離婚を考えるようになります。
1-3.夫が家を出て行った、帰ってこない
医師は年収が高いので、家にお金を入れてもなお自由になるお金が多いものです。家庭生活に嫌気がさしたり飽きたりすると、家を出て行って別に住み始めるケースもあります。
「仕事が忙しい」という理由でほとんど家に帰ってこなくなったり、中には浮気相手の女性と一緒に暮らし始めたりする事例もみられます。
医師と離婚することは決して珍しいことではないので、周囲に不審がられたり「もったいない」などと言われたりしても「私が悪いのかも」などと心配する必要はありません。
2.医師の財産分与で注意すべきこと
医師と離婚する場合、財産分与で特に注意が必要です。
医師は年収が高いので婚姻期間中に多額の共有財産を形成しているケースが多数です。また保有する財産の種類も一般のサラリーマンなどと比べて多種多様で複雑になっているものです。
以下では医師が離婚する場合の財産分与のポイントを説明していきます。
2-1.財産分与の割合について
一般的な離婚のケースでは、財産分与の割合は基本的に2分の1ずつです。妻が専業主婦であっても、妻が家事育児をしていたことによって夫が外で安心して働くことができた、と言う意味で妻に貢献度が認められるためです。
ただし医師の場合には、この2分の1ルールが修正される可能性が高いと言えます。そもそも医師は取得するのが難しい難関資格であり、医師として高年収を得ているのは医師本人の資質によるところが大きいと言えます。また開業して成功し、数千万円以上の所得を得ている場合、本人の事業者としての力量も多大です。そこに妻の貢献度はほとんど考えられません。
そこで妻に対する財産分与割合が少なく修正されます。裁判例でも医師と離婚する妻に5%程度の財産分与しか認めなかった事例などがあります。
2-2.医療法人を設立している場合の特殊性
医師の場合、個人事業としてではなく医療法人を設立して医業を行っている方も多くおられます。その場合にも財産分与には特殊な取扱いがなされます。
まず医師本人の財産と医療法人の財産の切り分けの問題があります。離婚は医師個人が行うものであり医療法人は関係がないので、医療法人名義の財産は財産分与の対象になりません。家や車などが医療法人名義の場合、妻はそれらに対する権利を持つことはありません。
ただし、医療法人を設立するときに夫婦がお互いに「出資」しているケースがあります。「出資持分」は個人財産として財産分与の対象になるので、離婚の際に正確に見積もって分配する必要があります。
出資持分を評価すると、非常に高額になるケースも多々あります。
また出資持分については、夫婦だけではなくどちらかの実家の両親が負担している場合などもあるので、複雑化しやすいものです。
医療法人を設立している医師と離婚する場合には、目先の預貯金や不動産などだけではなく「出資持分」に注目することを忘れてはなりません。
3.勤務医の場合
相手が勤務医の場合には、サラリーマンに近い状態になるので、特有の大きな問題はないとも思えます。ただ勤務医であっても一般のサラリーマンと比べると非常に高い年収を得ているケースが多く、財産分与、婚姻費用や養育費が多額になりがちです。離婚前に別居するときには、きっちり請求をして相場通りの婚姻費用を払ってもらい、離婚後には養育費をきちんと払ってもらいましょう。
また勤務医は1つの病院にとどまらずに転職するケースが非常に多数です。勤務先が変わって収入が上がれば養育費の金額も増額されます。
さらに勤務医は、常勤勤務先の病院以外の病院にアルバイトに行く事例も多々あります。そういった場合には、アルバイト代も婚姻費用や養育費算定の根拠となるので、ごまかされないように注意が必要です。
4.医師と退職金
「医師には退職金がない」と思われているケースがありますが、現実にはそうでもありません。勤務医の場合、病院で退職金が支給される例がよくあります。
経営者医師の場合にも「長期平準定期保険」や「逓増定期保険」と呼ばれる保険に加入し、将来退職金を受け取れるように算段しているケースが多数です。そういったものがあれば財産分与の対象になるので、見逃すべきではありません。
当事務所では、これまで医師の離婚案件も数多く取り扱って参りました。経験とノウハウを蓄積しておりますので、お気軽にご相談下さい。