民法では「夫婦が裁判で離婚できる条件」として「法定離婚原因」を定めています。
法定離婚原因がないと、訴訟を起こしても離婚を認めてもらえません。ただし当事者同士で話し合って合意する協議離婚や裁判所で話し合って成立させる調停離婚なら可能です。
このページでは法定離婚原因にどういったものがあるのか、名古屋の弁護士がわかりやすくご説明します。
このページの目次
1.法定離婚原因とは
法定離婚原因とは、民法の定める「法律上の離婚原因」です。離婚訴訟では、法律上の離婚原因がないと離婚できません。
法定離婚原因が問題になるのは、相手が離婚を拒絶しているときです。相手が離婚に同意していれば協議離婚や調停離婚できますが、相手が離婚を受け入れない場合には離婚訴訟で裁判所に「離婚判決」を書いてもらうしかないからです。
裁判を起こすときに「法定離婚原因」が認められなかったら「離婚判決」を出してもらえず請求棄却されてしまいます。
裁判で離婚請求が棄却されると、離婚は成立しないので夫婦関係は従来通り継続します。戸籍上夫婦のままですし、婚姻費用の支払い義務も継続します。
ただし離婚が成立しなくても法律上同居を強制されるものではないので、同居の必要はありません。
別居しているなら、その状態のまま離婚成立時か別居解消時まで、婚姻費用のやり取りを続けることになります。
以上のように法定離婚原因は「相手が離婚に応じないときに裁判で離婚するために必要な事情」といえます。
2.5種類の法定離婚原因
民法の定める法定離婚原因は、以下の5つです(民法770条1項)。
- 不貞
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復しがたい精神病
- その他婚姻関係を継続し難い重大な事由
以下でそれぞれについて詳しくみていきましょう。
2-1.不貞
不貞とは、一般的に「不倫」「浮気」といわれていることです。ただし法律上の「不貞」の場合「配偶者のある人が配偶者以外の異性と性交渉をすること」を意味します。単にキスしただけ、デートしただけ、LINEなどで男女の親しげなメッセージを交わしただけでは「不貞」になりません。
不貞は配偶者に対する重大な裏切り行為なので、一方当事者が不貞すると婚姻関係の継続は困難となり離婚原因として認められています。また不貞された側は大きな精神的苦痛を受けるので、不貞した配偶者と不貞相手に対し慰謝料も請求できます。
金額は100~300万円程度が相場であり、婚姻期間が長い場合や不貞期間が長い場合、不貞が悪質な場合などに高額になります。
2-2.悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、「婚姻関係を破綻させてやろう」という意図を持って配偶者を見捨てることです。
たとえば以下のようなケースが悪意の遺棄に該当します。
- 収入があるのに収入のない相手に対して生活費を払わない
- 正当な理由なしに家出をする
- 正当な理由なしに同居を拒絶する
- 健康なのに働かないで遊び暮らしている
悪意の遺棄をされた場合にも、相手に慰謝料請求できます。金額の相場は100~200万円程度です。
2-3.3年以上の生死不明
配偶者が生死不明の状態となって3年以上が経過したら、訴訟で離婚を認めてもらえます。
「生死不明」である必要があるため、「どこにいるかわからないけれど生きているのは確実」な場合は離婚できません。たとえば相手が行方不明だけれどもときどきメールが来る、手紙や物が送られてくる、などの事情があると離婚できない可能性が高くなります。
なお配偶者が行方不明になってから7年が経過したら「失踪宣告」の申立ても可能です。失踪宣告が認められると、相手は死亡したのと同じ扱いになります。
3年以上の生死不明を理由として離婚するのか、失踪宣告を申し立てて死亡扱いにするのか、どちらが良いかは状況によって異なります。
迷われたときには弁護士がアドバイスしますので、お気軽にご相談下さい。
2-4.回復しがたい精神病
相手が重度な精神病にかかっており回復見込みがない場合、裁判で離婚が認められる可能性があります。
離婚原因となる精神病の種類は限定されている
ただしどのような精神病や精神症状でも離婚が認められるわけではありません。
離婚原因となる可能性があるのは以下のような精神病です。
- 統合失調症
- 躁うつ病
- 若年性アルツハイマー
- 偏執病
上記のような精神病であってもいつでも離婚できるものではなく、「非常に重度で回復見込みがない」ことが必要です。
一方、以下のような精神症状では離婚できません。
- ヒステリー
- ノイローゼ
- 心身症
- アルコール依存、薬物依存などの依存症
相手の精神病を理由に離婚する場合、以下のような2つの条件も要求されます。
これまで献身的に看護・介護してきた
離婚に至るまでに健康な配偶者が精神病の配偶者を献身的に看護してきたことが必要です。努力してもどうしても夫婦関係の維持が難しくなったとき、はじめて離婚が認められます。
離婚後の相手の生活の目処が立っている
実家に戻る、行政の援助を受けて何とか自活するなど、離婚後に精神病の配偶者の生活目途が立っていることが必要です。生活の目処が立っていないのに精神病の相手を放り出すような離婚は認められません。
2-5.その他婚姻関係を継続し難い重大な事由
上記の4つに該当しなくても、それに匹敵するほど重大な事情がある場合には離婚が認められます。
具体的には以下のような事情があると離婚が認められやすくなります。
- 暴力
DVのケースでは離婚が認められ慰謝料も発生します。
- モラハラ
ひどいモラハラ行為が継続的に行われている場合にも離婚原因となり慰謝料が発生します。
- 浪費による生活費の使い込み
相手が生活費を使い込んで家族の生活を維持できなくなった場合などには離婚原因となります。
一方、単なる性格の不一致や相手の実家との不和、宗教や政治思想の不一致などの事情では基本的に離婚が認められません。
「離婚したい」と思ったとき、まずは法定離婚原因があるかどうかを見極める必要があります。ご自身では適切に判断できないケースが多いので、専門家の知識を頼って頂けますと幸いです。名古屋で離婚に悩まれている方がおられましたら、お気軽に弁護士までご相談下さい。