夫や妻が不倫したら「誰に慰謝料を請求できるか」が問題です。
配偶者に慰謝料請求できるのか不倫相手に請求できるのか、あるいは両方に請求できるのか、片一方だけ選択して請求できるのか、離婚してもしなくても慰謝料を請求できるのか。
今回は「不倫の慰謝料請求の相手」について名古屋の弁護士が解説します。
このページの目次
1.不倫されたら、配偶者と不倫相手の両方に慰謝料請求できる
不倫された場合、配偶者と不倫相手の両方に慰謝料請求できます。
不倫は配偶者への重大な裏切り行為なので「不法行為」になります。不法行為が行われたとき、慰謝料を支払わねばならないのは「加害者」ですが、不倫の場合、加害者になるのは不倫した配偶者と不倫相手の二人です。
このように複数の加害者が共同で不法行為をするケースを「共同不法行為」と言います。
共同不法行為が成立する場合、共同不法行為者は「全員が連帯して」損害賠償義務を負います。
以上から不倫が行われたときには、共同不法行為者である「配偶者」と「不倫相手」の両方に連帯責任としての慰謝料支払い義務が発生するので、不倫が発覚したときには配偶者と不倫相手の双方に慰謝料請求できます。
2.どちらか一人だけを選んでもいい
配偶者と不倫相手の両方に慰謝料請求できるとしても「どちらかだけを選んで請求」できるのか、疑問に思う方もおられます。
これについては可能です。
共同不法行為者は「連帯債務」を追いますが、連帯債務の場合には「債務者全員が負債全体について」の支払い義務を負います。債権者は誰にどれだけ請求してもかまわないので、「どちらかから先に請求しなければならない」「同時に請求しなくてはならない」などの制限を受けません。
不倫の慰謝料を支払ってほしいとき、夫や妻のみに請求してもかまいませんし、不倫相手のみに請求することも可能です。もちろん両方へ同時請求もできます。
3.どちらにどれだけ請求できるのか
では不倫相手と配偶者に慰謝料を求めるとき、それぞれ「いくらずつ」請求できるのでしょうか?
この質問に対する答えも「連帯債務」から導かれます。連帯債務の場合、債務者全員が「全額についての支払い義務」を負います。個別の負担部分を主張できないので債務者が2人いても「半額ずつ」などにはなりません。
不倫の慰謝料についても配偶者と不倫相手がそれぞれ全額について支払い義務を負うので、請求者はどちらにどれだけ請求してもかまいません。
配偶者に全額支払わせても良いですし、不倫相手から全額の支払いを受けてもかまいません。もちろん半額ずつや3分の1と3分の2などの割合で支払ってもらうことも可能です。
4.不倫相手の親には請求できない
不倫相手が慰謝料を払わないとき、ときどき「親に代わりに払ってもらえないのか?」と考える人がいます。しかし不倫相手の親には慰謝料を請求できません。不法行為責任は不法行為をした本人にしか発生しないので、親だからといって子どもが行った不法行為の責任を負わされることはありません。
不倫相手が「お金がない」と言っていても親に請求すべきではありません。不必要に親に不倫の情報を伝えると「プライバシー権侵害」と言われてしまう可能性もあります。
5.パターン別「不倫慰謝料を誰に請求すべきか?」
このように不倫の慰謝料は配偶者に請求しても不倫相手に請求してもかまわないものですから、誰に請求すべきか自分で考えて決めなければなりません。どのようなケースで誰に請求すれば良いのか、みていきましょう。
5-1.離婚したくない場合
不倫慰謝料の請求相手は、あなたが離婚したいかどうかによって決めると良いです。
離婚したくないなら、配偶者に対して慰謝料請求するメリットが小さくなります。離婚しない限り夫婦の家計は1つなので、夫や妻から支払いを受けても結局同じ財布の中でお金が循環するだけになるからです。
離婚しないなら、通常は不倫相手のみに慰謝料請求をすれば充分です。同時に「きちんと関係を清算し、二度と関わらない」と約束させましょう。
その際、不倫相手に「求償権」を放棄させることも大切です。求償権を行使されると、慰謝料の支払を受けた後に不倫相手からあなたの夫や妻に支払った慰謝料の一部を返還請求されてしまいます。せっかく苦労して慰謝料を払わせても夫や妻を通じて返還しなければならなくなったら労力が無駄になります。
合意書内で、必ず「求償権を放棄する」「求償権は行使しない」と明確に約束させましょう。
5-2.離婚したい場合
離婚したいなら、慰謝料は不倫相手と配偶者の両方に請求するのが良いでしょう。
離婚する場合、配偶者とあなたの家計は別になるので、配偶者から支払いを受けた慰謝料はあなた一人のものになります。また不倫相手からも支払いを受けられたら、さらに多くのお金が手元に入って離婚後の生活の足しにできるでしょう。
どちらからどれだけ支払ってもらってもかまわないので、なるべく支払い能力の高そうな相手から多めの金額を支払ってもらいましょう。
6.配偶者のみにしか慰謝料請求できないケース
配偶者のみに不倫慰謝料を請求するケースはないのでしょうか?
離婚する際、配偶者から多額の慰謝料の支払いを受けた
離婚する際に配偶者から400万円や500万円などの多額の慰謝料の支払を受けた場合には、「不倫慰謝料が全額支払い済み」と評価される可能性があります。「不倫相手が支払うべき部分が残っていない」と判断されると不倫相手には別途慰謝料請求できなくなります。
7.不倫相手にのみ請求する場合の注意点
離婚したくないので不倫相手にのみ慰謝料請求をすると、配偶者が感情的になって離婚問題に発展してしまうケースがあるので注意が必要です。配偶者の行動も予測しながら対応しましょう。
不倫慰謝料を請求するときには「誰に請求するか」の選択が重要なポイントとなります。判断に迷われたときには弁護士までご相談下さい。